大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成7年(行ツ)164号 判決

大阪市北区曾根崎一丁目一番二四号

上告人

マッシー森田ゴルフ株式会社

右代表者代表取締役

森田眞琴

右訴訟代理人弁護士

樽谷進

大阪府高槻市南庄所町二番五号

被上告人

森田ゴルフ株式会社

右代表者代表取締役

森田美智子

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行ケ)第一八〇号審決取消請求事件について、同裁判所が平成七年六月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人樽谷進の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 山口繁)

(平成七年(行ツ)第一六四号 上告人 マッシー森田ゴルフ株式会社)

上告代理人樽谷進の上告理由

一、原審は「森田ゴルフ」の表示は自他商品の識別力を有せしめないほどにありふれたものとまでは認め難いと判断した。

しかし、右判断は経験則に反している。

「森田ゴルフ」はありふれた氏「森田」と業種を表わす普通名詞「ゴルフ」を結合したものにすぎず、自他商品の識別力を有しないというべきである。

即ち、次の事実がある。

1、上告人が「森田ゴルフ」を商標登録出願したところ、「ありふれた姓と運動競技の一つを書いているにすぎない」ことを理由として出願は拒絶されている事実がある(甲第六号証)。

2、商標審査基準によれば、「ありふれた氏、業種名、著名な地理的名称(行政区画名旧国名又は国の地理的名称を含む)等に「商店」「商会」「屋」「家」「社」「堂」「洋行」「協会」「研究所」「製作所」「会」「研究会」「合名会社」「合資会社」「有限会社」「株式会社」等を結合してなる商標は原則として商標法第三条一項四号でいう「ありふれた名称」に該当する」ものとする。

ただし、「行政区画名と業種名を結合してなる会社名については普通に採択ざれうる名称である場合でも他に同一のものが現存しないと認められるときはこの限りではない」としている。

この基準からすれば、本件商標である「森田ゴルフ株式会社」は商標法第三条一項四号のありふれた名称に該当する。

3、「ありふれた氏または名称」に該当するものとして拒絶査定がなされ、これが維持された審決例には、別紙一覧表記載のものがある(引用、中村英夫著、商標の実務、一六五頁以下)。

別紙一覧表中の「浅田飴」「アダチ食品株式会社」「井田黒板」「和泉製菓」「加藤製油」「菊池食品工業株式会社」「黒田餅」「坂饅頭」「ササキガラス」「神藤ポンプ株式会社」「鈴木バイオリン」「ナガタバット」と対比すれば、「森田ゴルフ」「森田ゴルフ株式会社」は拒絶されるべきありふれた商標である。

4、「森田ゴルフ株式会社」の商標出願がなされた昭和五四年九月二一日当時、上告人(原告)である大阪森田ゴルフ株式会社が存在し、上告人は森田ゴルフを通称としていた。そして、「森田ゴルフ」と呼称する広告を電話帳に掲載し続けていた(甲第一五号証の一ないし一五)。

5、大阪森田ゴルフ株式会社が取引上の通称として「森田ゴルフ」を使用しており、昭和五四年八月には、「森田ゴルフ」の標章を付した商品は、大阪森田ゴルフ株式会社の製造、販売にかかる商品として取引者需要者間に広く知られていた(甲第二三号証の一ないし一四号証)。

6、上告人は昭和五二年に印刷した上告人のカタログ五〇〇〇部を昭和五二年から昭和五四年にかけて店頭及び郵便で需要者に配布していたし、お客様に交付する計算書にも「森田ゴルフ」と印刷し、お客様に配布していた(甲第二四、二五号証)。

以上の各事実からすれば、「森田ゴルフ株式会社」の商標はありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法第三条一項四号)に該当するものであり、原審の判断は改められなければならない。

二、原審は「商標法第三条一項六号は「需要者がその商品が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない」ことを商標の不登録事由としているのでみって、必ずしも需要者がその商品が特定の者の業務にかかるものであることを認識することができることまでも必要としているわけではないとし、本件商標における「森田ゴルフ」の表示は自他商品の識別力を有せしめないほどにありふれたものとまでは認め難いのであって、本件商標が商標法第三条一項六号に定める商標に該当するものということはできないと判断した。

しかし、右判決は次の各事実からして経験則に反する判断である。

即ち、

1、本件商標の登録日(昭和五六年五月二六日)当時においても、社名あるいは屋号に「森田ゴルフ」の名称を含んだものとして「株式会社森田ゴルフ」「大阪森田ゴルフ株式会社」「森田ゴルフ製作所」「森田ゴルフ」「森田ゴルフ商会」「森田ゴルフ販売福岡支店」など複数存在したものとして推認されること原審判決も認めるとおりである。

2、そして、大阪森田ゴルフ株式会社は「大阪森田ゴルフ」ではなく、「森田ゴルフ」と認識されていたのである。この事実は職業別電話帳(甲第一五号証の一ないし一五)、証明書(甲第二三号証の一ないし一四号証)、カタログ(甲第二四号証)、計算書(甲第二五号証)から明かである。

更に、上告人は森田ゴルフを上告人の標章として使用していたので、昭和五五年三月一八日、「森田ゴルフ」の商標登録出願をなしたのである(甲第五号証)。

3、加えて、被上告人は昭和五九年まで上告人の注文で「森田ゴルフ」「MORITA」の標章を付した、あるいは打刻したゴルフクラブのヘッドを上告人に納品し、これを上告人は自社製オリジナルゴルフクラブとして販売していたのである(甲第三二号証)。

4、昭和四二年一月には加門みさゑを代表者とする森田ゴルフ販売株式会社が設立され現在に至っている(甲第三二号証三六丁)。

5、他方、被上告人は「森田ゴルフ株式会社」の商標登録をなしたものの、「森田ゴルフ」「森田ゴルフ株式会社」との商標を付したゴルフクラブの製造は上告人の注文で、上告人の製品として製造した以外には全く製造も販売もしていない。被上告人の製造するゴルフクラブのブランドは「クラウナー」「CROWNER」であり、被上告人は自らのブランドとして「クラウナー」を使用していたもので、「森田ゴルフ」を使用してはいない。

これらの事実からすれば、本件商標は需要者において、何人の業務に係る商品であるか認識することのできないものであるといわなければならない。

三、原審は「森田ゴルフ」が被告以外の他人の名称の略称として著名であることを認めるに足りる証拠はなく、本件商標は他人の名称の著名な略称を含む商標であるということもできないと判断した。

しかし、右判断は経験則に違反した事実認定である。

1、上告人は職業別電話帳において「森田ゴルフ」と通称をもって広告をなしている(甲第一五号証の一ないし一五)。

2、上告人の取引先も上告人を「森田ゴルフ」と称していた旨証明している(甲第二三号証の一ないし一四)。

3、上告人作成のカタログにおいて上告人は「森田ゴルフ」と称している(甲第二四号証)。

4、森田ゴルフがお客様に渡していた計算書にも「森田ゴルフ」と記載がなされている(甲第二五号証)。

5、上告人は大阪市北区神明町の店舗以来、看板に「森田ゴルフ」と書いていた(甲第三五号証)。

6、被上告人は、上告人の注文により「森田ゴルフ」「MORITA」の標章を付したゴルフクラフを製造し、上告人に納品していたのであって、「森田ゴルフ」「森田」「MORITA」の標章を付したゴルフクラブを被上告人の商品として製造、販売してはいない。

このような事実からは「森田ゴルフ」は上告人を呼称する名称であったというべきである。

四、最高裁判所は、本件と同じ当事者間の平成三年(オ)第一三八九号事件の判決において上告を棄却し、「森田ゴルフ株式会社」の商標の要部は「森田ゴルフ」又は「森田」であるとの原審判決を支持した(甲第三四号証)。

そして、「森田ゴルフ株式会社」の要部が「森田ゴルフ」又は「森田」であるとして、ゴルフクラブヘッドの「MORITA」の使用まで差止めた。

ところが、今度の原審判決は「森田ゴルフ」の部分が商標としての識別性判断の対象であるとした。「森田ゴルフ」の部分が識別性判断の対象であるとすることは、先の最高裁判所判決が「森田ゴルフ株式会社」の商標の要部が「森田ゴルフ」又は「森田」とした原審判決を支持したことと齟齬する。

そして、先の最高裁判所判決は、「森田ゴルフ株式会社」の商標が取消されておらず、存在する前提で「森田ゴルフ株式会社」の商標に基づく差止請求の範囲として、「森田ゴルフ株式会社」はもちろん「森田ゴルフ」ありふれた姓である「森田」「MORITA」にまで及ぶとした。「森田」「MORITA」にまで差止の範囲が広範に及ぶ、そのような商標が認められることは取引関係において不公正を助長する結果となる。

即ち、ありふれた姓「森田」「MORITA」をゴルフクラブヘッドに刻印することまで商標の効果として幅広く差止の効果を生じてしまい、不公正な結果となることを先の判決結果が如実に物語っている。かような識別性の弱い商標は元々、商標たりえないものというべきであるので、原判決は改められなければならない。 以上

別紙一覧表

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